【社会】「自宅で旅行客を有料宿泊」日本で定着しないワケ [06/28]

★「自宅で旅行客を有料宿泊」日本で定着しないワケ
2015.06.28　連載：大前研一のニュース時評

自民党の規制改革推進委員会の提言案が、今月中にまとまる政府の成長戦略に反映される。
この提言案の中には、旅館業法の適用を除外して自宅で旅行客を有料宿泊させることも盛り込まれている。

これは、地方でのイベントに外国人観光客が集まることを想定し、時期や地域を限って
自宅での宿泊を法規制の対象外とするよう求めたものだ。すでに首都圏や関西圏の
国家戦略特区で、外国人が７日以上滞在する場合、住居を宿泊施設にできる規制
緩和が実現している。それを地方に広げたというわけだ。

この提言、世界で急速に普及している「Ａｉｒｂｎｂ（エアビーアンドビー）」
のようなシステムを認めようということなのだろうか。

エアビーアンドビーは、自宅の空き部屋を有料で貸したい人と安く泊まりたい
旅行客を結びつけるウェブサイト。本社は米サンフランシスコで、２００８年に
設立された。ホテルより安く、旅先の雰囲気も味わえるということで利用者が急増し
、世界１９０カ国以上に８０万以上の宿を提供している。東京だけでも１０００件
以上の物件が登録されているという。

しかし、旅館業者からみると、これはとんでもないことだ。
日本には「部屋とベッドを有料で貸し出せば旅館業に該当」という旅館業法の決まりがある。
旅館業は、一定の広さの客室や消防設備などを整え、自治体の許可を得る必要があるのだ。

したがって、例えば子供が巣立って部屋が空いたとき、３世帯住宅を建てたものの
祖父も祖母も亡くなってしまったとき、その部屋を貸したいと思っても、旅館業
法という壁が阻んでくる。子供がいたときには防火壁がなくてもよかったのに、
他人を泊めるとなったら、行政は必要だと迫る。さらに消火栓は？　脱出用の扉は？　
などと言い出すのが従来の仕組みだった。

こういった日本の常識は、世界からみると非常識だ。先の国家戦略特区の規制緩和も
「外国人が７日以上滞在する場合に限り」ということで、現実の実態とはそぐわない。
さらに、反復継続して行うと摘発されることになる。

昨年５月、東京都足立区で外国人観光客向けの簡易宿泊所を無許可で営んだとして、
警視庁保安課が英国系カナダ人の男性を旅館業法違反の疑いで摘発した。
テレビでもこれ見よがしに手錠をはめて連行される姿が映し出された。
保健所は客室面積が旅館業法の基準を満たさないということで、
改善したうえで許可を取るよう１０回にわたり指導していたという。

エアビーアンドビー的考えは、日本という国では定着しない。自由にさせない理由は何か？　
それはやはり、業者を守るということなのだろう。ところが、いまの旅館はバタバタと
潰れている。人気のない温泉街などはゴーストタウン化している。消火栓や防火壁などが
あっても火事が起これば犠牲者も出ている。規制があっても実際には経営も警備も
問題だらけなのだ。なのに、よそから違う業態が入ってきたときには規制する。

変な人を自宅に泊めることで何か起こるかもしれない。逆に泊まってみたものの、
あまりにひどい部屋だったというケースもあるだろう。しかし、そういうことを
データとして蓄積することによって安心して泊まれる善良、快適な施設が浮かび
上がってくる。何より高齢者にとっての副次収入の機会はありがたい。

こういう部分に業界を背にした役人が口を出すと、誰のためにもならない。
一泊二食付き旅館は長期滞在には不向きである。おいしい食堂も随所にあ
る日本でこそ、エアビーアンドビー的考えが浸透してほしいのだが…。

http://www.zakzak.co.jp/society/domestic/news/20150628/dms1506280830004-n1.htm