迫る本土決戦、宮崎に謎の部隊　「最後の生き残り」が語った使命 [蚤の市★]

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　76年前の太平洋戦争末期のこと。宮崎県日南市の城下町に5カ月間だけ滞在した旧日本陸軍の部隊があった。70人足らずの兵隊は昼間ほとんど姿を見せず、地域住民も「何をしているのか分からなかった」と振り返る。謎に包まれた部隊の姿をひもとくと、目前に迫る本土決戦に備え「一億玉砕」をも覚悟したという九州の緊迫した状況が浮かび上がる。（中略）

　「部隊が来たのは真冬。1945年1月だったと思う」。地元の大工岩下健福（かねよし）さん（89）が回想する。部隊は、外交官で政治家の小村寿太郎を育てた旧藩校「振徳堂（しんとくどう）」敷地内の青年学校に居着いた。

　岩下さんは隣接する国民学校に通っていたが、部隊が訓練する様子は見たことがない。「昼に動くならトラックなどが行き来するでしょうが、まったくでした」。たまに見かける兵隊の目つきがとても鋭かったことが強く印象に残っている。教員は「夕方以降は振徳堂に近づくな」と厳命した。えたいの知れなさから「敵国に送り込むスパイらしいとのうわさがあった」

　飫肥城下町保存会の元事務局長、郡司均さん（73）は「部隊のことは2005年の市制50周年記念誌にも載っていない」と証言する。戦中世代の人が一人また一人と鬼籍に入り、部隊の存在を知る人はさらに減っていった。

　「部隊のことを後世に伝えたい」－。8年前、ある高齢男性が飫肥を訪れたのをきっかけに、少しずつ実態が明らかになってきた。部隊で唯一の「生き残り」という男性。東京で暮らしていると知り、会いに行った。

米軍の南九州侵攻計画の地図
　男性は、1人で暮らす東京都中野区のアパートで出迎えてくれた。元日本兵の八児（やちご）雄三郎さん。福岡県旧桂川村（現桂川町）出身、1925年10月生まれの95歳。のりの利いた水色のシャツを着こなしていた。

　「最後の生き残りかもしれない」。76年前、宮崎・飫肥（おび）にいた部隊のことを話し始めた。

　その名は「西部軍遊撃教導隊」。霧島神宮（鹿児島県霧島市）にちなみ、通称は「霧島部隊」といった。およそ70人。上官はスパイ養成機関の陸軍中野学校出身者で、隊員は九州各地から20代前後の優秀な下士官や兵士が集められた。福岡県久留米市の戦車隊員だった八児さんもその一人。

　「周りがどんどん出征するのがうらやましかった」。旧飯塚商業専修学校を卒業後、石炭会社に勤めたものの、44年春に陸軍に入る。「西部軍遊撃教導隊機関要員を命ず」－。辞令を受けたのは、その年末だった。「遊撃が何か分からなかったんですよ」

　翌年1月、飫肥に赴いた。上官の指示は「昼は寝ていろ。夕方から支度するぞ」。午後6時ごろ武装すると翌朝まで山の中を歩く。目が暗闇に慣れるまでの時間を計り、星や風向きから方角を読み取る。「射撃訓練なんて一切なかった」。沖縄出身の上官に空手を習い、缶詰の中に爆弾を仕込む「缶詰爆弾」を頭に縛り付けて海を泳ぎ、対岸の船に仕掛ける練習もした。

　「死ぬな。生きて敵をかく乱し続けろと言われた。ゲリラ戦の要員なのだと理解した」

　程なく、本当の狙いを知ることになる。八児さんら隊員は、5月に飫肥を離れ、九州各県に配属。中学生ぐらいの少年をゲリラ兵に仕立てろと命じられる。（中略）

　大分に配属された八児さん。日田、別府、佐伯と転々とし、現地の有力者が集めた300人ほどの少年を指導した。「1カ所当たり2、3日。武器はないので訓練らしい訓練ではなかった」。タコつぼに身を潜め、戦車が通れば爆雷を仕掛ける。持久戦に備え食べられる野草の見分け方も教えた。急造の少年部隊の存在意義は、主力部隊が到着するまで敵との戦いを引き延ばす「時間稼ぎ」。中野学校出身者がまとめた校史には「本土決戦の人柱部隊」とある。

　45年8月15日。本土決戦の前に終戦し、少年たちが犠牲になることはなかった。一方、激しい地上戦が繰り広げられた沖縄では、同じく中野学校出身者が育てた少年ゲリラ部隊「護郷隊」が（中略）。

　飫肥を訪れた後、護郷隊の歴史を知ったという八児さん。「私は少年たちに生きて戦い続けろと教えた。死は強要していない」。こう語気を強めたけれど、「本土決戦になれば死んでいただろう。まだまだ子どもだったんですよね…」とつぶやき、長く沈黙した。

　最後に聞いた。今思う戦争とは。

　「国のために命を懸けて戦えと教育され、いざ戦争が始まれば守るべきは国民ではなく国になる。恐ろしさはそこにある」

　　（高田佳典）

西日本新聞　2021/8/14 6:00
https://www.nishinippon.co.jp/item/n/784979/

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