【京都】「大嘗祭」憲法や差別問題と関係　「身体検査に、身の上調査」「穢れにふれる、言われて…」

樽悶 ★

　天皇の代替わりに伴う大嘗祭（だいじょうさい）の中心的儀式（１１月１４、１５日）で用いる米を収穫する斎田（さいでん）（主基（すき）田）として南丹市八木町の水田が選定されたことは既に報道された通りです。報道によれば、この水田所有者も府知事も「名誉なこと」として受けとめています。が、筆者は、大嘗祭がもつ憲法上の問題や差別問題との関連などを考えた場合、はたして手放しで喜ぶべき事態かどうか、大いに疑問に思います。

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　大嘗祭が天皇の国事行為でないことは当然であり、憲法７条に規定された国事行為１０種類の中に大嘗祭は含まれていません。また、皇室典範には「即位の礼」の規定はありますが（２４条）、大嘗祭についての規定は一切なく、したがって、大嘗祭に法律上の「公的性格」があるとは必ずしもいえず、それに公費（税金）を支出することには、憲法上、大きな問題があるといわねばなりません。大嘗祭は本来的に皇室（天皇家）の私的な宗教行事でしかないのです。

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　前回の大嘗祭に対して提起された「大嘗祭国費支出差止等請求」訴訟で、大阪高裁は原告側敗訴としながらも、「大嘗祭が神道儀式としての性格を有することは明白であり、（略）少なくとも国家神道に対する助長、促進になるような行為として、政教分離規定に違反するのではないかとの疑義は一概に否定できない。（略）国民を主権者とする現憲法の趣旨に相応（ふさわ）しくないと思われる点がなお存在することも否定できない」と説示しました（１９９５年３月９日）。原告側は、この部分を評価して、あえて上告をしませんでした。

　政府の閣議了解でも「宗教上の儀式としての性格を有する」とされた大嘗祭で何が行なわれるのかは、宮中の“秘儀”ということもあって、その詳細は分かりません。前掲「有志の会」の勉強会（９月１９日・キャンパスプラザ京都）でレクチャーした京大人文科学研究所の高木博志教授（日本近代史）は、「大嘗祭の神座の儀において、すべての天皇は天孫＝アマテラスの孫＝ニニギノミコトとして生まれ変わる」儀式であると説明されました。その際に重要な意味をもつのが、斎田（主基田と悠紀（ゆき）田）から「抜穂の儀」（収穫儀式）を経て収穫された米を天皇が神々と共食するという儀式であり、これによって天皇は最高の祭司としてアマテラスとの直接のつながりを誇示できる、そのような呪術的な秘儀が大嘗祭の内実を作り上げているらしいのです。

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　ところで、京都御所での大嘗祭は、先々代の昭和天皇のそれが最後でした（１９２８年）。この時、悠紀田に選定されたのは滋賀県野洲町（現・野洲市）でしたが、その稲作に従事した人々（奉耕手と呼ばれた）が後日、苦労話を座談会形式で語っている記事を読む機会がありました。神社本庁の機関紙ともいえる『神社新報』（９０年６月４日付）の記事です。そこで語られていたことは――。

　「身体検査に、身の上調査、いやー、奉耕手の選定も厳しかった」「斎田に入る前には潔斎場で服を改めて、神主さんの御祓（おはら）いを受けな入られしません。生理の時も奉仕できしません」「死の穢（けがれ）にふれる、言われて兄が息を引き取る前に親戚でない他人の家にあづけられました。葬儀にも出席できませんでした」等々。

　語り手たちはさほどの疑問も感じなかったようですが、ここで語られていることは、差別問題を考えるうえで、決して無視できないテーマです。身上調査（身元調査）が差別撤廃に反する行為であることはいうまでもありません。また、座談会で語られていた事柄は、この国の原始神道時代以来の三不浄（赤不浄＝女性の生理の血穢、白不浄＝出産にかかわる産穢、黒不浄＝死穢）と呼ばれるケガレ観念そのものです。

　ケガレ観念はまさに部落差別、性差別、障害者差別などの基底を支えてきた、そして現代にまで尾を引く差別イデオロギーです。筆者が、差別問題との関係で大嘗祭を問題化しなければならないと思うのは、儀式がらみの諸行事についてまわるケガレ観念の記憶喚起機能です。前回の大嘗祭の時も同じようなことが行なわれたのか、そして今回も行なわれるのか、筆者には分かりませんが、注意深くありたいと思います。

　もちろん、問題は大嘗祭だけではありません。先述の「有志の会」勉強会で高木教授が問いかけられたように、天皇制は近現代の身分制の問題であって、生まれながらの「貴種」の存在をどう考えるのか――、筆者としても、代替わりを機にきちんと考えたいと思います。（八木晃介花園大学名誉教授・元毎日新聞記者＝社会学）

毎日新聞 2019年10月12日
https://mainichi.jp/articles/20191012/ddl/k26/070/374000c?inb=ra

【京都】「大嘗祭」憲法や差別問題と関係 「身体検査に、身の上調査」「穢れにふれる、言われて…」

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