【刑の一部執行猶予】「施設で更生」約束破り続出　導入１年

孤高の旅人 ★

刑の一部執行猶予　「施設で更生」約束破り続出　導入１年
毎日新聞2017年10月24日 12時16分(最終更新 10月24日 12時25分)
https://mainichi.jp/articles/20171024/k00/00e/040/244000c

　薬物使用事件などの再犯防止を目的に「刑の一部執行猶予制度」が導入されて１年余り。法務省によると、９月末現在で既に約１００人が服役を終え、「一部猶予」の期間に入っている。これまで制度の適用対象者の再犯は確認されていないが、公判時に「出所後は民間リハビリ施設に入所する」と約束しながら、結局入所しないケースも多く、施設側は複雑な思いを抱えている。【飯田憲】

受け入れ側困惑
　「多い時は月に１０件ほど届きます」。津市の薬物依存民間リハビリ施設「三重ダルク」代表の市川岳仁さん（４６）は、１００通を超える手紙を広げて見せた。
　拘置所内の被告らからの「薬物依存から立ち直りたいので、出所後に入所したい」「証人として、出所後に受け入れる用意があると公判で話してほしい」といった趣旨の内容が多い。以前からこうした手紙が来ることはあったが、この１年で急に増えたという。
　「ダルク」は全国６１カ所にある。自らも薬物依存症をダルクで克服し、今は精神保健福祉士の資格も持つ市川さんは昨年６月以降、７件の薬物事件で裁判所の証言台に立った。被告とは公判前に面会し「出所後は三重ダルクに入所する」との約束を得て、実際に全件で一部猶予判決が出た。しかし、出所直前になると３人の受刑者が入所を断ってきたという。
　薬物使用者が一部猶予判決を受けた場合、猶予期間中は保護観察所の改善プログラムの受講と簡易な薬物検査を義務づけられ、違反すると執行猶予を取り消される。一方で、公判での証言を翻しても、即座に取り消されることはない。
　適用者が再起を誓う姿を信じて奔走してきた市川さんは「彼らが僕に求めたのは、判決が自分に有利になるための証言だけだったのかもしれない」と無力感を募らせる。
保護観察、民間の力不可欠
　法務省は、制度の導入に伴って保護観察の対象者は年間３０００～４０００人増えると試算している。対象者を指導する全国約１０００人の保護観察官の人手不足も懸念され、同省保護局の担当者は「一部猶予制度の定着に民間や地域の力は欠かせない」と話す。
　このため、同省は薬物依存症を治療できる病院やダルクなどと情報を共有する仕組みを作る一方、帰るあてのない出所者らに一定期間住まいや食事を提供する更生保護施設（全国１０３施設）のうち２５施設を薬物治療の重点施設に指定するなど受け皿の整備を進めている。
　重点施設の一つで女性出所者を受け入れる「両全会」（東京都渋谷区）では、薬物依存を断ち切るための臨床心理士による心理療法を取り入れている。
　出所者が更生保護施設に滞在する期間は半年以内となることが多いが、同会では施設退所後も治療を受けられるようにした。同会の小畑輝海理事長（７５）は「誘惑の多い社会は、塀の中とは環境が異なる。再犯を防ぐには人間性の回復が必要で、長期的に寄り添うケアが重要」と話している。

刑の一部執行猶予
　裁判所が３年以下の懲役（または禁錮）判決を言い渡す場合に被告の刑期の一部を執行猶予できる制度で、昨年６月に開始。適用者は猶予期間中、保護観察の対象となり、再犯防止への取り組みを求められる。例えば「懲役２年、うち懲役６月は２年間執行を猶予する」との判決を受けた被告は、１年６カ月間服役して出所した後、２年間新たな罪を犯さなければ残る６カ月間は刑務所に戻らずに済む。最高裁のまとめで、今年５月末までの１年間で１５９６人の被告に適用され、うち９割超は薬物事件だった。

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