【社会】軍事研究に「理系女子」

ニカワ ★

◆元安藤研・堀川さん「疑問も持たず協力」

　太平洋戦争末期、様々な軍事研究が行われるなか、理系の高等教育機関を出た女性も軍事研究に従事していた。夜間、サーチライトを当てられても見えない“ステルス”戦闘機の塗料や、硫黄島の防衛のために硫黄と砂で建設資材を作る研究をしていたといい、この女性は「みんな『お国のために』と何の疑問も持たず、戦争に協力した時代だった」としている。

　証言したのは江戸川区の堀川（旧姓・古宇田）迪代さん（９１）。帝国女子理学専門学校（現・東邦大学）の化学科を出た“理系女子”の先駆者だ。

　１９４４年秋、同校卒業後、同校で教えていた東京工業大染料化学科の安藤暹助教授（当時）の研究室（安藤研）に入った。そこで安藤助教授と電気化学科の星野●助教授（当時）が軍から委託された研究に従事した。

　当時、米軍のＢ２９爆撃機による夜間空襲に対し、日本軍は地上からサーチライトでＢ２９を照らし出し、戦闘機で迎撃していたが、戦闘機に光が当たると、Ｂ２９の機銃で攻撃されてしまう。そこで自分たちの戦闘機が見えないような、光を吸収する塗料を探すことになったという。

　東工大本館の中にはドイツ製などの染料が１０００種類以上あった。安藤助教授らが「紺色」を選び、堀川さんらはガラス板に紺色の染料を１種類ずつ塗った実験用サンプルを大量に作ったという。

　硫黄島攻防戦（４５年２～３月）を前に、飛行場への爆撃でできる穴を早急に補修するため、同島に豊富な硫黄と砂をどうすれば早く固められるかも研究した。

　堀川さんらは硫黄と砂と水の混合物を、るつぼの中で熱して固める実験を繰り返した。材料の混合比や温度を変え、データを記録。星野助教授の研究室の研究員が結果をまとめ、４４年頃、大学内の報告会で発表したという。

　大学での軍事研究は敗戦時に資料が焼却されたりしたため、不明な点が多い。東工大は「この研究を裏付ける資料は残っていない」としている。

　だが、当時、安藤研の助手だった水野俊彦・元同大工学部化学工学科助教授（９４）は「陸軍の登戸研究所に安藤研のＯＢがいて、様々なテーマの軍事研究を持ち込んできた」と明かす。

　堀川さんは「科学に興味があり、研究生活はやりがいがあった。女性でも役に立てたことはうれしかった」と振り返り、「戦後７０年が過ぎ、自分の経験を誰かに伝え、残しておきたいと思った」と話す。

　軍事研究の問題に詳しい名古屋大学の池内了名誉教授（宇宙物理学）は「戦争に勝つという名目で掲げられた軍事研究だが、実際のところは、大学の教員が軍から資材をもらい、自分の研究を続けたかったのだろう。同種の研究は多数あったはずだが、戦後、資料はほとんど残っていない」と話している。

◆戦局打開へ研究盛んに

　戦争中、国内では戦局を打開しようと様々な軍事研究が行われた。

　理化学研究所の仁科芳雄や京都帝大の研究チームが原子爆弾の開発に携わったが、日本の研究費は米国の開発費２０億ドルの０．２５％。原爆用のウラン濃縮に必要な遠心分離器の製作段階で挫折したり、空襲で濃縮用の熱拡散分離塔が焼失したりした。

　航空燃料不足を補うため、松の根から取る松根油の利用が叫ばれ、女学生らが和紙を貼り合わせて作った「風船爆弾」が米国に向けて風で飛ばされたほか、強力な電磁波をパラボラアンテナで敵機に照射する「殺人光線」も研究された。

●＝小に山と豆

http://www.yomiuri.co.jp/local/tokyotama/news/20160914-OYTNT50365.html