うまく世界変貌を表現できているか評価してくれ！

カロリーメイトはチョコレート派

いつも通りの電車に乗って学校へ向かう。30分もあるのだから、何かしなければ時間が勿体ない。だから、この時間の読書は欠かせない。
今日はデストピア小説だ。僕の好きなジャンルの一つである。変り往く世界に奮闘する主人公が、仲間や恋人の死を乗り越えて強大な敵に立ち向かう物語だ。世界が変貌する場面の臨場感が溜まらない。

デストピア小説にはゾンビなるものが登場する。
それを見て思い出したのだが、今朝不審なニュースを耳にした。隣町で変死体が見つかったのだとか。それも只の変死体ではない。喰われた後の死体だ。
死体に残された歯形が、人間のものに一致するそうだ。それを聞いた司会の男はわざとらしく驚いていたが、きっと腹を空かせた猿が人を襲ったに違いないと思う。しかしどうも気になって、小説の内容が頭に入ってこない。

突然、僕の体が宙に浮いた。電車がすごい衝撃を受けて急停車したのだ。
ぶつけた頬が痛む。頬骨にひびが入ったかもしれない。
しかし、その痛みは前方の光景を見て忘れてしまった。

「うわぁ.....」

車内にどよめきが起こる。電車のフリントガラス一面を赤く染める大量の鮮血。轢かれた人間の絶対的な死を物語っている。
フロントガラスをよく見てみると、固形物もこびり付いていた。耐えられずに嘔吐する乗客もいた。グロ耐性を付けた僕は大丈夫だが、事故現場を写真に収める心臓に羽毛を生やしたJKもいる。僕はこういう奴が大嫌いだ。少しは自重しろ。

ただ、人身事故で燥ぐ気持ちは分からなくもない。幾度か人身事故で電車が遅れたことはあったが、自分が乗っている電車では初めてのことだ。どのような工程で処理されるのか、少しだけ興味があった。

僕はもう少し現場を見たかったので、多くの人が車両後方に集まる中、フロントガラスへ近づいた。血液の付いていない端から外の様子が覗える。
線路には真っ赤に染まった死体が転がっていた。20m程離れていたので詳しい状態は分からないが、如何に衝突が激しかったのかが窺える。

対応マニュアルがあるのか、運転手に焦った様子はなく、死体に背を向けて電話をしていた。
すぐに消防や警察の人がやってきて、耽々と仕事をこなしていく。暫くそれを見ていたが、面白いものではなかった。

僕は一段落ついた現場に退屈し、スマートフォンを取り出して学校に電話をかけた。遅刻の趣旨を伝えなければらならないからだ。
電話に出たのは担任で、朝電担当の先生ではなかった。そしてこの話は、他生徒から聞いて知っているようだった。

やけに電話の向こうが騒がしかった。その理由を尋ねたところ、朝電を担当する数学の先生が、突然吐血して倒れたという。今救急車を待っているところで、数学の先生は20分程前に保健室へ運ばれたそうだ。

20分？

僕はその状況に違和感を覚えた。
保健の授業で習ったことだが、救急車の到着までの平均時間は約7分だ。学校は田舎にあるわけではなく、町中にある。
理由を聞こうと口を開いたその時、鼓膜に銃声のような音が響いた。驚いて外を覗く。

僕は唖然とした。現場の状況は一変していたからだ。
警官が一人倒れている。肩からは出血が見られ、傷口を抑えながら悶絶している。
それを囲うように、周囲にいる警察官が一点に向けて銃を向けていた。
そして、その中心に立つ真っ赤な物体。倒れこむ警官のすぐ後ろに立ち尽くし、焦点の合わない瞳が警官を見ていた。

――それが轢死体であることに気づくまでに、時間はかからなかった。

バンッバンッ

警官の一人が、轢死体の足元に発砲する。警告のつもりだろう。「それ以上近づくな！手を上げて跪け！」という声が、ここまで聞こえた気がした。
対して轢死体は全く動じない。反って発砲した警官を睨み付け、唸り声を上げて飛び掛かった。
警官は反応が遅れ、首を噛みつかれた。他の警官が、遂に轢死体向けて銃を構える。が、ここでもまた奇怪な光景が目に映った。
先程まで悶絶していた警官が、銃を構えた警官の首に、後ろから噛みついたのだ。

そこからの展開は説明要らずだ。動揺した警官達は、次々に歯の餌食となり、後ろで見ていた消防隊は蜘蛛の子を散らすように逃げていった。

スマートフォンが手から滑り落ちる。しかし、それどころではない。目の前の奇怪な光景に気を取られ、スマホから響く担任の悲鳴にすら気付かなかった。

最後に立っていたのは、轢死体と、人ならざるモノへと変化した警官だけだった。
轢死体が奇声を上げる。

幾つものビルから立ち込める黒煙が、世界の終焉を物語っていた。