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◆悟りを求めない人の談話室No.29◆

984 :手ぶらの乞食:2020/08/03(月) 20:02:37 ID:yoAkyqay.net
「激安王子」
作.手ぶらの乞食

うだるような暑さの中

吉田ヒロシは扇風機にあたった。

部屋に籠った熱のせいで首を振る風は生暖かかったが、日がな一日中、陽に照らされて仕事をこなしたヒロシにとっては、そんな生暖かさでも充分涼しかった。

ヒロシはビラ配りのバイトをしていた。

「まったく、ビラなんか配ったってよ
誰も受け取りゃしねぇ…何が激安王だよ
普通じゃねーか」

ヒロシは生暖かい風の中で父のことをふと思い出した。「この…風…どこかで…」

〜あれは幼少の頃、セミの声でいっぱいの公園。「よし!ヒロシ!行け!」

幼かったヒロシは父のその大きな肩に乗って虫取り網をセミ目掛けて精一杯降った。

「よ〜し!ヒロシ!でかしたぞ!
ミンミンゼミだ。セミの王様だ!ハッハ」

そう言うと父はミンミンゼミを虫かごに入れた。

父は汗だくで喜ぶヒロシの顔を嬉しそうに覗き込みながら、被っていた麦わら帽子でヒロシの顔を扇いだ。

風が涼しかった。〜

父はあの夏の終わりに死んだ。

「父さん…何でだよ」

そう呟きながら扇風機を眺めていると、そっぽを向いていた扇風機がこちらを向いた。

「父さん」



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パチン☆!!
https://youtu.be/sPYsMM1FvXs

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