【横浜】「無職だと戦争に行かされる」とベトナム難民男性　かつての「いちょう団地」では夜中の大声やごみの分別トラブル、けんかなどが絶えず［01/03］

★【神奈川】外国人と共に歩む（２）ベトナム出身　「いちょう団地」は第２の故郷
2016年1月3日

横浜市泉区の「いちょう団地」にあるベトナム料理店「サイゴン」。足を踏み入れると、香辛料とパクチーの香りが漂い、
ベトナム語が飛び交う。まるで異国の空間。「ここには仲間がたくさんいる。居心地がいいよ」と、ベトナム出身の
店主グエン・バン・トアさん（５６）は笑顔を見せる。

泉区と大和市にまたがる団地は、全三千六百戸の二割が東南アジアなど外国人の世帯。グエンさんはホーチミン
近郊の生まれだ。一九七五年のベトナム戦争終結時、社会の混乱で定職に就けないでいた。
「無職だと次の戦争に行かされる」。敗北した南ベトナム側の住民として、命の危険を感じた。

七八年、家族を残して単身、メコン川に係留していた小さな舟で国外へ脱出。沖に出ると石油輸送船が待ち構えていた。
乗組員に「日本に連れて行ってやる」と言われ、迷わず乗り込んだ。「戦争のない日本に住みたい」。
三日かけて、沖縄県に到着した。

二年半日本語を勉強した後、工事現場などで働いた。外国人がまだ珍しい時代。自動車部品工場を転々とし、
言葉が分からないのをいいことに悪口を言われることもあった。「どこの国だって、いい人もいれば、悪い人もいる」

四十歳のとき、いちょう団地で料理店を構えた。ベトナム人の妻が、ベトナムで料理店を営んだ経験があり、
「一緒に店を」と提案した。同郷の人たちが集住していると知り、「ここならできる」と決意した。

店には客がひっきりなしに訪れる。時には日本人も訪れ、会話に花を咲かせる。
「毎日忙しいよ。嫌なことはなくなったし、店の経営も安定してきた」

支えてくれた日本人に恩返ししようと、東日本大震災後、被災地へ炊き出しに行った。フォーなどのベトナム料理を
振る舞うと、「おいしい」「ありがとう」と感謝された。「過ごしやすく、みんないろいろ気にかけてくれる。第二の故郷です」

隣接する大和市にインドシナ難民の定住促進センターがあったこともあり、八〇年代以降、横浜市泉区のベトナム、
カンボジア、ラオス出身者の登録人口は急増した。いちょう団地では夜中の大声やごみの分別トラブル、
けんかなどが絶えなかったが、自治会幹部が「近隣で助け合い、問題は話し合って解決するように」と呼び掛けて
相互理解が進み、ここ数年減少している。

現在は通訳や生活相談ボランティアが盛んで、海外からの移住者にも住みやすい団地になった。
日本人住民の高齢化も進み、団地第七自治会長の堀江広史さん（６８）は「掃除や祭りなど若い人手が必要なとき、
外国人に頼ることが増えてきた」と話す。少子高齢化が進む日本の縮図にも見える。（志村彰太）

＜インドシナ難民＞　１９７０～８０年代にベトナムやカンボジアで政変から避難した人たち。人種、宗教などの理由で
迫害の恐れがあり、母国で保護を受けられない「条約難民」と区別される。ベトナム戦争終結後の７５年から日本に上陸。
ただ、インドシナ難民をどのように受け入れるか国会で公式に議論した形跡はなく、閣議決定で受け入れと支援方針が
決められたという。難民問題に詳しい東洋大の荻野剛史准教授は「米国などの外圧があった」と指摘する。
大和市と兵庫県姫路市に、定住促進センター（現在は閉鎖）が設けられ、言語研修や仕事紹介を行った。
荻野氏によると、日本はこれまで１万２０００人を受け入れ、８０００人ほどが定住している。

http://www.tokyo-np.co.jp/article/kanagawa/list/201601/CK2016010302000108.html

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