【寄稿】村山氏と安倍氏の因縁の裏にあるもの　元朝日新聞主筆・若宮啓文

★【寄稿】村山氏と安倍氏の因縁の裏にあるもの
2015/05/26 09:12

21年前の日本社会党委員長・村山富市氏が日本の首相になったのは、奇想天外な出来事だった。
しかも、わずか1年半の在任中に「戦後50周年」を迎えたのは神からの贈り物だったのだろうか。
「村山談話」が世に出たのは1995年8月15日だった。

先週、朝鮮日報主催の国際会議「アジアン・リーダーシップ・コンファレンス（ALC）」に出席した
村山元首相は講演で、「首相になった以上、歴史に残された課題を整理したかった」と当時の心境を語った。
講演で発言を求められた私は「韓国でよく知られていなかった村山談話が日の目を見ることになったのは
安倍晋三首相のおかげだ」と冗談交じりに言ったた。安倍首相が今夏発表する「戦後70年談話」に多くの
人々が注目しているからだ。

村山氏と安倍氏は対照的な政治家だ。安倍氏の祖父・岸信介元首相は1960年、日本国とアメリカ合衆国との
間の相互協力および安全保障条約（日米安保条約）を改正した。その時、岸氏を首相退陣にまで追いやった
デモ隊の中に青年・村山氏がいた。漁師の家に生まれた村山氏は苦学した人物だ。安倍氏は当時5歳だった。
村山市は後に議席の過半数獲得に失敗した自民党の要請で首相になった。安倍氏は、祖父が署名した
日米安保条約をその村山氏が受け入れざるを得ない立場になった時、胸のすく思いがしたことだろう。
だが、その代わりに村山首相が信念をもって貫いたのが村山談話だった。

安倍氏の母方の祖父・岸氏は太平洋戦争開戦時の閣僚で、戦後はA級戦犯被疑者として逮捕された。
後に起訴を免れ、釈放されたとはいえ、岸氏は戦前の連続性を象徴する人物だと言える。
侵略と植民地支配を国家政策の過ちとして謝罪した村山談話は、その連続性を絶つ意味があった。
新人の国会議員だった安倍氏は、この時も村山氏に「やられた」と思ったかもしれない。
こうした心理が安倍談話に対する執念につながっていると思う。

しかし、結局は引き分けになるのではないだろうか。韓中だけでなく米国も歴史認識では村山氏寄りだ。
日本国内でも村山談話に対する支持率は高い。こうした雰囲気の中では、安倍首相も村山談話の継承を
表明せざるを得なかった。だが、安倍首相は具体的な文言まで自身の考えを譲歩しようとはしないだろう。

考えてみれば、岸氏を反共のリーダーに育てようとしていたのは米国だった。その背景には6・25戦争
（朝鮮戦争）もあった。安保条約改定後に退陣した岸氏は韓日国交正常化を支援し、韓国経済の応援団長役も
果たした。安倍首相は祖父のこうした業績を誇りに思っている。だがその一方で、村山氏は韓日国交正常化に
反対した。その村山氏が今、韓国で大歓迎され、安倍首相は朴槿恵（パク・クンヘ）大統領から首脳会談
すら拒否されている現実は皮肉だ。韓日国交正常化を決断したのは朴正煕（パク・チョンヒ）元大統領
（朴槿恵大統領の父）ではなかったのか。

冷戦の終結、韓国の民主化、韓中関係の好転など戦後の大変化を安倍首相はきちんと理解するべきだ。
韓国も国交正常化当時の歴史と韓国の経済を支援した日本の役割を振り返ってみてほしい。
安倍首相を批判しつつ、「戦後日本の役割」を信じる安倍首相の自尊心を考える余裕も必要ではないだろうか。
国交正常化50周年を前に、韓日両首脳の度量に期待する。

若宮啓文元朝日新聞主筆

http://www.chosunonline.com/site/data/html_dir/2015/05/26/2015052600878.html

【寄稿】村山氏と安倍氏の因縁の裏にあるもの 元朝日新聞主筆・若宮啓文

【寄稿】村山氏と安倍氏の因縁の裏にあるもの　元朝日新聞主筆・若宮啓文