【社会】「シャブはやるな。やったらやめられない」…覚醒剤依存、家族の経験演じる、「人間を化け物にする」脳裏に焼き付けて

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　エアコンもない体育館で７月、額に汗を浮かべながら、懸命に一人芝居を続ける男性がいた。内谷正文さん（４４）だ。演じるのは、
覚醒剤依存症に陥った３歳違いの弟と家族が歩んできた、どん底の半生だ。

　芝居を見つめるのは、未来の可能性が無限に広がる高校生。目をむき出し、よだれを拭い、覚醒剤に毒されていく様子を表現していく。
「うぇええ」。幻覚や幻聴におびえて奇声を発し、ナイフを振り回す。生徒たちは時折、つばを飲み込みながら、最後まで真剣なまなざしを
向け続けた。

　芝居を終えると、生徒たちに語りかけた。芝居内容は正直、分からなくても良い。ただ、体育館の暗闇で父母と同じ世代の男が演じる
不気味な芝居を、脳裏に焼き付けてくれたらと願う。「薬物は人間を化け物にします」。そう力を込めた。

　■次第にエスカレート

　自らも薬に溺れた青春だった。入り口は暴走族仲間に勧められたシンナー。当時は１６歳、「すぐやめられると思った」。だが、マリフアナ
などに手を出すのに間はなく、薬物は欠かせなくなった。罪の意識はまるでなく「楽しく、天国だった」と振り返る。

　成人し、役者の道を志した後も、薬物を絶てなかった。依存症にはならなかった。理由は弟の姿にある。

　兄の背中を追った弟は同じ暴走族に入り、覚醒剤に手を染めた。幻覚や幻聴の世界でしか生きられなくなり、布を頭からかぶって自室で
ブツブツと独り言を続けた。「血のにおいがする」と家中をひっくり返し、風呂の蓋を閉めて湯船に十数時間つかったこともあった。

　そんな弟に覚醒剤は危ないからマリフアナにしろと諭していた。「俺も完全に狂っていた」

　弟が問題を起こす度に家族は尻拭いに追われ「殺そうと思ったこともあった」という。

　病院は、弟を薬漬けにするだけで解決にならず出口は一向に見えなかった。光が差したのは、わらにもすがる思いで頼った更生施設
だった。家族内での解決は無理だと諭され、一生関係を断つ覚悟で施設に入れるように言われたという。

　「行く先は墓場か刑務所か施設しかないのよ」。母の訴えに、弟は、家族と縁を切り施設に入る決断をした。自らも距離を置いていた
芝居の世界に戻り、３３歳で薬物と決別。恩師の勧めで一人芝居をするようになった。

　《シャブはやるな。やったらやめられない》《白い悪魔は、地獄に引きずり込むやつを探しているぞ》

　■こうなると伝えたい

　実体験の芝居は評判を呼び、１３０回近く公演を重ねている。「目の前にクスリを出されれば、今もやると思う。家族の恥をさらして演じる
のは手を出すことへの歯止めでもある」

　ほとんどが施設から抜け出せない中、弟は２年で社会復帰し、今では２児の父として九州で暮らす。一人芝居を始めた直後、九州での
公演で、一度は縁を切った弟が照明を手伝ってくれた。「いいね。兄貴」。芝居に笑顔をみせてくれた。

　薬物をめぐっては、有名人による覚醒剤事件や、危険ドラッグ（脱法ドラッグ）による事故が後を絶たない。「薬物をやるなと偉そうなことは
言えない。ただやったら、こうなることは伝えたい」。目に強い意志が浮かんでいた。

ソース（MSN産経ニュース）　http://sankei.jp.msn.com/affairs/news/140831/crm14083122190005-n1.htm
写真＝自らも薬物を乱用、弟は依存症となった内谷正文氏。実体験を演じ、薬物の恐怖を若者らに伝え続けている
http://sankei.jp.msn.com/images/news/140831/crm14083122190005-p1.jpg