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中島みゆきの名曲

763 :ジョン・スミス:2022/11/28(月) 18:16:15.24 ID:/E0sCHrt.net
「悲しみに」

「健一、開けてくれよ。鍵を開けてくれんと入れんじゃないか…」
「お前なんか親じゃない! もうこの家に帰って来るな!」
中学生になったばかりの僕は父が許せなかった...

家族のことはかえりみず、自分の好きなようにお金を使い、
挙句は人の保証人になったりして、多大な借金を抱えて来た...
そんなルーズな父が許せなかったのだ。

「健一、父さんを許してやってもいいんじゃないの…」と母が言う。
「母さん! 何言いだすんだ!? あんなに母さんと話し合ったじゃないか、
あいつはもう、父さんでも何でもないんだって! 母さんが働いたお金を
人にあげちゃう様な人間は父親でも何でもないって母さんと話し合ったじゃないか…?!」

「でもね、酷い人だと思うけど、優しいところもあるしね…」
「ふざけんなよ! 母さんと僕を泣かせて、一体どこが優しいんだよ!
このままじゃ家庭が滅茶苦茶になってしまうじゃないか!!」

その夜、中学生になったばかりの僕が、そんな父を家に入れないようにした為、
父は僕と母を残して、僕たちの前から去っていった.........
―――――それが僕の見た父の最後の姿だった―――――――――

...それから十年と言う歳月が流れた.........
そんな父が亡くなったという知らせをそれも絵葉書で受け取った...
「お母さん、まさか、行くつもりじゃないだろうね…?!」

「いくらなんだって、母さん行ってくるよ。お骨も取りに行かないなんて、あまりに
不人情すぎるよ…」「駄目だよ母さん! もしかしたら嘘かもしれないじゃないか…」

「あの人は気が弱く、何もできない人だったけど、嘘だけはついたことがなかったんだよ。
嫌になるくらい正直な人だったよ…」「でも、絵葉書でこんな大事なこと知らせに来るなんて
おかしいじゃないか…?! それも差出人は女の人の名前だよ…」

「大学は奨学金で言ってくれたし、働いたお金は、全部家に入れてくれるし、
母さんはお前には感謝しているよ…」「じゃあ、行かないでくれるね…」

僕は淋しそうな母を見て、自分のしていることに不安を感じないわけでもなかった。
だからこれでいいのだと自分に何度も言い聞かせた.........

...それから間もなく母はこの世を去った.........
母の最期の言葉は「お父さんを許してやって…」と言う言葉だった...

―――今、僕は三年前に届いた絵葉書の住所を頼りに、―電車に乗った―――
   ―――海岸沿いを走る電車の中から見える窓の外の景色を見ていた... 
          ――― 沖をゆく 一隻の舟 ―――――――――
                          

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